大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和28年(ワ)247号 判決

原告 高村ミツヱ 外五名

被告 高村太七

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

事実

原告等は「被告は原告等に対し沼崎土地合資会社の設立登記事項中有限責任社員高村太助、同高村太三の各死亡による相続により入社した原告等に関し変更登記手続をしなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

一、沼崎土地合資会社の設立当時の社員、その責任限度および出資額は訴外高村太三、無限、金二百五十円、同佐藤雅景、無限、金二百五十円、同高村太助、有限、金三百円であつた。

二、然るに高村太三はその後の昭和二十三年一月十九日その持分全部を佐藤雅景に譲渡して退社し、右佐藤雅景は同年五月二日死亡により退社し、被告太七が同月十五日新に金五百円を出資し、無限責任社員として入社したので、社員その責任限度出資額は高村太助、有限、金三百円と被告太七、無限、金五百円となつた。

三、ところが右太助は昭和二十四年八月九日死亡したのでその相続人である訴外高村いと(妻)同大森かつよ(長女)、同高村清太郎(三男)、同高村太三(四男)、同高村熊太郎(五男)、被告(七男)訴外高村トキヱ(養女)においてその持分を共同相続して各入社した。

四、そして又、前記高村太三は昭和二十六年二月六日死亡したのでその持分は相続人である原告ミツヱ、同恭子、同良子、同高子、同佑、同健において共同相続して各入社し、ここに前記会社の設立登記事項に変動を生じた。

五、そこで原告等は代表社員である被告に対し再三に亘り前記高村太助及び高村太三の死亡により入社した原告等に関し変更登記手続を求めたが被告はこれに応じないから本訴請求に及んだと述べた。

被告訴訟代理人は「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、原告等の訴は原告等の入社に関する変更登記手続を求めるのであるから当然右会社を被告としなければならない。然るに本件においては被告個人を相手方とするのであるから不適法であると述べ、本案につき主文第一項同旨の判決を求め、答弁として請求原因のうち一ないし四の事実は認める。五の事実中被告が社員の入社に関し変更登記手続をしなかつたことは認めるがその余の事実は否認すると述べた。

理由

先ず被告の本案前の抗弁について考える。被告は本訴請求は原告等の入社に関する変更登記手続を求めるものであるから当然、会社を相手方としなければならないのに本件訴は被告個人を相手とするのであるから不適法である旨主張する。然し原告等の訴旨は被告に原告等主張の如き登記義務のあることを主張し、且つ被告に対してこれが履行を求めるというにあるから、はたして被告に右のような登記義務があるか否かは請求の理由ありや否やを左右するだけのことであつて、訴の適否に関するものではない。

そこで本案につき判断する。原告等がその主張のような経過によつて沼崎土地合資会社の有限責任社員たる地位を承継取得したことは当事者間に争がない。そうしてかように社員たる地位を取得した者はこれを公示するための会社設立登記事項の変更登記請求をなし得るとしても、無限責任社員として会社の機関を構成するにすぎない被告が個人として原告等に対し、これに対応する登記義務を負ういわれがない。

非訟事件手続法第百八十六条、第百八十条は右のような変更登記の申請は無限責任社員の責務であることを規定する。しかしそれは国に対する公法上の義務であつて(商法第四百九十八条参照)前記原告等の登記請求権に対応する義務を規定したものでないことは明かである。

されば会社を相手とするは格別、会社の機関にすぎない被告を相手にした本訴請求はその余の争点について判断する迄もなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項を適用して主文のとおり判決する。

尚右訴訟と併合して提起された原告沼崎土地合資会社(代表者高村ミツヱ)と被告高村太七間の業務執行権等喪失宣告を求める訴(商法第八十六条、第百四十七条)については無限責任社員たる右被告が昭和三十二年十一月二十一日死亡したことはその当事者間に争がなく、右訴の目的である業務執行権は被告の無限責任社員たる地位に随伴するものであるところ(商法第百五十一条)、その無限責任社員たる地位は被告の死亡とともに退社により終了し、相続の対象とはならない(商法第百四十七条、第八十五条)のであるから、もとより被告の業務執行権も亦死亡退社により消滅したものというべく、かような法律関係を訴訟物とする右訴訟における被告の訴訟法上の地位はその相続人に、よつて承継せられ得るものではなく、ここに右訴はその目的を失つて当然に終了したものである。よつて、右訴については何らの判決をもしないこととしたのである。

(裁判官 飯沢源助 宮本聖司 中園勝人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例